遺言執行者に関する法改正
平成30年7月に民法の相続法が改正され、相続に関する規定が大きく見直されました。相続をめぐる紛争を防止する観点から遺言制度の利用促進を図るために、遺言に関する規定も様々な見直しがされています。法改正前は曖昧な部分もあった遺言執行者について、明確な規定がおかれ、特定財産承継遺言(いわゆる相続させる旨の遺言)に関しては、重要な改正がされています。
ア.遺言執行者の権利義務
遺言執行者の職務は「遺言の内容を実現する」ことにあると明示され(民法第1012条第1項)、遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる(民法第1012条第2項)とされました。
イ.特定財産に関する遺言の執行
特定財産承継遺言がされた場合に、遺言執行者に、相続人が対抗要件を具備するために必要な行為をする権限が付与されました(民法第1014条第2項)。改正前は、特定財産承継遺言による相続登記は、相続人が単独で登記申請できることから、遺言執行者は登記申請の権利も義務も有しないと判示されていましたが、改正によりこの登記申請は遺言執行者の権限であるとされましたので、受益相続人のみならず、遺言執行者が申請することも可能になりました。
ウ.特定財産承継遺言の対抗要件
旧法下では、特定財産承継遺言によって権利を取得した相続人は登記等の対抗要件を備えなくても、権利の取得を第三者に対抗できると判示されていました。これでは、遺言の有無や内容を知り得ない相続債権者等の利益を害する恐れや、登記制度の信頼を害する恐れがあることから、改正により、法定相続分を超える部分に関しては、対抗要件を備えなければ権利の取得を第三者に対抗できないこととされました(民法第899条の2)。
改正法の施行日(令和元年7月1日)から上記のルールで運用されますが、規定によって新しいルールが適用されるタイミングが違いますので注意が必要です。
ア.遺言執行者の権利義務 |
遺言執行者の就任日が令和元年7月1日以降なら新ルール適用 |
イ.特定財産に関する遺言の執行 |
遺言書の作成日が令和元年7月1日以降なら新ルール適用 |
ウ.特定財産承継遺言の対抗要件 |
相続の開始日が令和元年7月1日以降なら新ルール適用 |