「遺言による信託」と「遺言信託」の違い
「遺言による信託」は「信託」ですが、信託銀行の「遺言信託」は、実は「信託」ではありません。
なお、民事信託・家族信託でいう「遺言信託」は「信託」です。
どういうことか、以下でご説明いたします。
信託銀行の「遺言信託」とは、簡単に言うと「遺言書」の保管等のサービスをパッケージにした商品の名前です。「信託」という言葉が使われていますが、法律上の「信託」とは無関係です。
一方、民事信託・家族信託でいう「遺言信託」とは、遺言によって法律上の「信託」をするものです。
以下、もう少し詳しくご説明いたします。
「信託」とは、自分の持っている財産を、誰かに「信じて託す」という財産管理の1つの手法です。
例えば、お父さん(委託者)が自分自身(受益者)のために息子さん(受託者)に財産を託して、その管理を任せるといった具合です。
このように「信託」には、原則として「委託者」「受託者」「受益者」の3人が登場します。
信託をする方法には次の3つがあります。
・契約による信託
・遺言による信託
・自己信託(信託宣言)
「契約による信託」は、例えば、お父さん(委託者)と息子さん(受託者)との間で契約をすることによって成立します。
「遺言による信託」は、例えば、お父さんが「私が亡くなったら息子を受託者として私の所有する不動産を信託する」と遺言で定めておく方法で、お父さんが亡くなった時に信託の効力が発生します。
「自己信託(信託宣言)」は、例えば、お父さん(委託者)が自分自身を受託者として信託するという少し特殊なもので、法律で定められた方法(※)によらなければなりません。
この3つの方法のうち、「遺言による信託」のことを、民事信託・家族信託では「遺言信託」といいます。
一方、信託銀行の「遺言信託」とは、次の3つをパッケージにした商品の名前です。
・遺言書の作成のアドバイス
・遺言書の保管
・遺言執行
遺言を作成したいお父さんが信託銀行に「遺言書」を託す、といった感じのサービスですが、どこにも「委託者」「受託者」「受益者」は登場しません。つまり、これは法律上の「信託」ではありません。
「遺言による信託」は、法律上の「信託」です。
民事信託・家族信託で「遺言信託」といえば、この「遺言による信託」を指します。
一方、信託銀行の「遺言信託」は、商品の名前にすぎず、法律上の「信託」とは基本的には関係ありません。
「遺言信託」という言葉が2つ意味で使われているので少しややこしいのですが、「遺言信託」という言葉がでてきたら、どちらの意味で使われているのかを意識していただければと思います。
※公正証書等の公証人の認証を受けた書面によってするか、確定日付ある書面によって信託がされた旨を受益者に通知しなければなりません。